安藤哲也『本屋はサイコー!』(新潮OH!文庫)

本屋はサイコー! (新潮OH!文庫)

本屋はサイコー! (新潮OH!文庫)

安藤哲也氏は往来堂書店を立ち上げて「町の本屋の復権」を自ら実践したことで名前が通っている。本書は往来堂書店を軸として、その前史と同店を退職しbk1への転職を自叙伝としてまとめたものである。

著者が田村書店でバイトをしていた頃、当時のベストセラーだった『清貧の思想』と同じテーマである別の本を隣に置いてみた。すると2冊を同時に購入する客が現れた。今度は違う棚にあった2冊を並べてみると、またもや2冊とも購入してくれた。別々に置かれていれば1冊しか買わない可能性が高い本を2冊並べることで2冊とも売れる結果となった。本屋は面白いと気づいた体験だった。これが原点である。

バイトから田村書店の店長に昇格して3年経過した。仕事に行き詰まりを感じていた著者は「本の学校」に参加する。ここで安藤哲也でなければ出来ない本屋を立ち上げたいと強く願う。往来堂書店の誕生だ。社長が田村書店の2号店に当たる往来堂書店への投資を承諾したのは前者の売上が増大していたことが大きかった。

往来堂の理念は「文脈棚」に現れている。田村書店と関わりを持つ前に、著者は出版社の営業マンとして全国の千二百軒以上の書店を訪問していた。大半の書店は同じ品揃えであり個性に乏しかった。それではダメだと分かっていた著者は、独自性を強く打ち出した書店を創り出す。

棚を「ダイナミックに編集してひとつの空間メディアとしてみせ」「本と本が織り成す連関性やメッセージを楽しんでもらいたいと考えた」のである。「隣りあった本と本は、けっして無関係ではない」。このコンセプトこそが往来堂書店たらしめている要因である。

本のセレクトショップとしての個性を前面に押し出し様々な仕掛けを施した往来堂書店は、地域の本好き・書店好きを引き寄せていく。安藤哲也氏の後を引き継いだ2代目店長の尽力もあり同店は地域に根付いた書店として存在感を放っている。
http://www.kousakusha.co.jp/KEC/hon008.html