嵐山光三郎『古本買い 十八番勝負』(集英社)

著者を含んで5名の古本愛好家が場所と店舗を設定した上で、どのような古本を購入したかを記録したものである。平凡社「太陽」編集長であった著者を筆頭に東京散歩モノで著名な坂崎重盛氏、「鳩よ!」(連載開始時、のち廃刊)の編集長、「小説すばる」の副編集長(のち、集英社新書の編集に異動)、第一回古本小説大賞の受賞者である石田千さんなど錚々たるメンバーが参加している。常連メンバー以外にも他のゲストが参加することもある。

「十八番勝負」と銘打っているのは、銀座・青山・渋谷など18ヵ所の地域にある古本屋さんを訪問していることから由来している(最終回のみ古書市)。その後で合評会が居酒屋・飲食店などで開催される次第である。

書名から連想されるのは、毎回購入された古本を評価して優劣をつけるというイメージだろう。勝負といっても、勝ち名乗りをあげている章もあるが、たいていは誰が勝者であるということには特に拘っていない。

ブログで今日買った本を列挙しているのがある。本の書名や著者名だけを列記されても面白くない。本書の特色は購入した本にまつわる蘊蓄がふんだんに盛り込まれていることにある。

カジやんは天野哲夫著『女神のストッキング』(工作舎、一九八一年刊、定価一六○○円)を一○○○円で。天野氏は一九二六年、福岡生まれの編集者で、またの名を沼正三という。天下の奇書『家畜人ヤプー』の作者である。

千円で購入した同書に対する付記である。両者が同一人物であることを知らない読者には、このような一文は実に有り難いであろう。

ヒロ坊は木村徳三『文芸編集者 その跫音』(TBSブリタニカ、一九八二年刊、定価一五○○円)を三○○円で。木村氏は戦前は「文藝」編集者、戦後は「人間」編集長として文壇とともに歩んだ人だ。川端康成太宰治三島由紀夫などを描き出す回想録で、松浦氏にせよ木村氏にせよ、戦前戦後の編集者の記録は貴重である。

このような簡潔な紹介文が全ページに亘って綴られていることで無味乾燥なデータの提示に終わらず、次の頁へと読者を誘いこませるのである。本の紹介だけでなく、訪問した古本屋さんへの行き方(略図付)、均一台の有様、棚の配列、店主の人柄なども簡略に描写されている。

時の流れは残酷だ。本書は「小説すばる」に「ニッポン古書店散歩」と題されていた連載を新書にまとめたものである。雑誌に掲載時の店舗も閉鎖、移転、オンライン専業化しているケースもあるようだ。それでも大半のお店は現在でも営業しているのだから、本書を参考にして実店舗を訪問するもよし、久しく立ち寄っていない古本屋さんを訪ねるのもよし、日課のように古本屋さんを巡っている古本愛好家にも新たな見地が与えられ掘り出し物発掘への気持ちを駆り立ててくれる。古本好きをターゲットにした類書が数多く上梓されているが、本書も古本の面白さを堪能させてくれる一冊である。

古本買い 十八番勝負 (集英社新書)

古本買い 十八番勝負 (集英社新書)